古くから、日本のエネルギー供給を支えてきた木材資源。
木造りの家屋では、炎が上がる薪だと火事のリスクが高く、木材を炭化して利用する技術が発達しました。高い製炭技術をほこる、日本の黒炭の特徴とは何でしょう?
ガスや石油が中心となって、影をひそめた黒炭。化石燃料の値があがり、熱波や豪雨がひんぱんに起きる今、エネルギー源として黒炭がもつ優位性とは?
黒炭とは?
白炭と比べ、黒炭は炭質がやわらかく、火がつきやすい特徴を持ちます。燃え方は早く、簡単に高い燃焼温度を出すことが可能です(白炭についてはこちらをどうぞ)。
黒炭のハイエンドブランドは、茶の湯炭として使われる池田炭。クヌギを原木とした炭の菊の花ような美しさが目を引きます(茶の湯炭についてはこちらをどうぞ)。
国産黒炭のおいしさの理由
アウトドアや自宅での炭火焼きで、国産黒炭を必ず選ぶ固定ファンの人たち。
推しの理由をたずねると、
- 煙や炎がでない
- 異臭がしない
この2点が必ずあがります。食材の味を損ねることなく、おいしく焼き上げる熱源としての品質の高さが魅力。燃焼の安定性、原木由来の木のほのかな香りや、燃えているときの美しさを理由にあげる人もいます。
全国各地で焼かれている黒炭。原木には、クヌギ、ナラ、カシ、カエデ、ブナなどが使われます。なかでも、良く知られているのが岩手木炭です。地域ブランドを知的共有財産として認める、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度。2022年1月現在、木炭では唯一岩手木炭がGI登録産品です。
もしものときに心強いエネルギー
昨年(2021年)、燃料価格の高騰や異常気象により、停電を余儀なくされている地域が相次ぎました。米国のテキサス州が寒波により大規模停電を実施、トルコでは熱波で電力使用量が高まり停電が発生、欧州でガス価格の高騰による電力危機は、ほんの一例。日本でも、いつ同じようなことが起きるかわかりません。
日本の家庭のエネルギー消費は、暖房28.9%、給湯31.7%、台所14.1%と熱利用が多くを占めています(エネルギー白書, 2021)。耐久性が高く長期保存が可能な熱源、黒炭。寒い非常時には、赤外線で暖がとれて、お湯がわかせ、調理できるのはとても助かります。防災対策に黒炭を備蓄している自治体もあり、お家にも置いておくと安心です。
無限のエネルギー
木炭のエネルギー源としての最大のメリットは、原料の木材が手に入りやすいこと。日本の温暖で湿潤な気候のおかげで、計画的に利用すれば木材資源が枯渇することはありません。黒炭に適した広葉樹は、伐ったあとの株から芽がでて育ち再生します。
木炭はカーボンニュートラル。木炭を燃やすときにでる二酸化炭素は、木が成長する過程で吸収した二酸化炭素のみ。後に育つ木が同じ程度の二酸化炭素を吸収するため、新たな温室効果ガスの排出につながらないとされています。
おわりに
日本は木の国、森の国。
国内で調達できるゆたかな木材資源を原料に、比較的簡単に燃料化できるローカルエネルギー、黒炭。エネルギーとしては秀逸です。ふだんの生活でも、もう少し気軽に使えるようになるといいなと思います。
<参考資料>資源エネルギー庁, 2021.エネルギー白書;資源エネルギー庁, 2021. 燃料及び電力を取り巻く最近の動向について;杉浦銀治ら(監修), 恩方一村逸品研究所 (編集), 2019, 炭やき教本 簡単窯から本格窯まで. 創森社;農林水産省, 2022. 地理的表示(GI)保護制度;宮藤・坂, 2006, 古くて新しい木炭のゆくえ, 材料, 55:356-362