炭の魔法

時計のない時間、心躍るおいしさ、自然の癒しをまねく炭。

MENU

日本独自のアート 炭美の鑑賞

世界中で燃料として使われている木炭。

しかし、その木炭に風情を感じ、芸術品にまで高めたのは日本だけのようです。その中心的な役割を果たしたのが茶聖、千利休です。茶室に自然の風景やうつろいを表すための花をいけることは良く知られています。花と同じく茶室の景色をつくる大切な存在なのが炭です。確かに炭火には惹きこまれる美しさがありますが、茶人たちはどのように炭を愛でているのでしょう。

f:id:hanadiop:20211217092025p:plain

あかあかと咲く菊の花                                                                                                  

11月からの炉が使われる季節に、正式な茶事では挨拶のあと最初に行うのが炭点前。亭主が釜をあげると、客人は炉によって種火の炎と灰の美しさを楽しみます。茶の湯炭には、断面が菊の花の形にみえるクヌギを原木にしたものを用います。あかあかと燃える菊炭の火の風情、炉中の湿り灰の景色、炭の色、形、置き具合が鑑賞のポイント。菊炭が燃えた後の姿も楽しみ、菊の形のまま白く残った灰は、能で老翁を意味する「尉」がなる、と尊ばれます。

火の流れは時の流れ

火の流れは、茶事の時の流れを示しており、火を抜きにして茶事を語るのは難しいといわれます。千利休は「炭の次第より始て、一座一会の心、只この火相、湯相のみなり」(南方録)といったと伝えられています。この火加減(火相)、湯加減(湯相)を決めるのが炭の質。茶の湯炭には見た目の美しさだけでなく、熱量、発熱時間といった燃料としての品質の高さが求められました。千利休は、炭の品質によって沸くお湯の質が違うとまで考えていたそうです。

技術革新を牽引

外観の美しさと、燃料としての品質の高さを求められた炭。それに応えたのが、池田炭、佐倉炭など茶の湯炭の産地の炭焼き職人たちです。良質な茶の湯炭の条件として、1) しまりがあって重く、火箸でたたくと澄んだ金属音がする、2) 菊の割れ目が細かく均一である、3) 切り口が真円である、4) 樹皮がうすい、5) クヌギの芳香がする、があげられます。これらに見合う製炭の高度な技術革新が進みました。茶の湯炭は、備長炭とならぶ炭の最高傑作として知られています。

 

湯を沸かす燃料として使っていた木炭。その炭を芸術品として昇華させ、実用的な品質も格段に向上させた先人たち。昨今、ビジネス界でMFA(美術学修士号)への関心が高くなっていますが、深く通じるものがあるように思います。

 

<参考資料> 岸本定吉, 1984.「木炭の博物誌」 総合科学出版;田中仙翁, 2013. 「茶の美と生きる」里文出版;新村出(編), 2017. 「広辞苑 第7版」岩波書店;木質炭化学会 (著), 谷田貝 光克 (監修), 2007. 「炭・木竹液の用語辞典」 森創社;樋口清之、1978. 「日本木炭史 上巻」講談社学術文庫