炭の魔法

時計のない時間、心躍るおいしさ、自然の癒しをまねく炭。

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火の獲得がもたらしたヒトの進化!

一気に寒くなりました。

まるで冬のようです。

寒い日に、炭火を囲むととても落ち着く。

暖まるのが大きいけれど、それだけではなさそうです。

炭火の明るさのゆらぎ。動物の生体リズムといわれる「1/fのゆらぎ」の心地よさ。

さまざまな脅威から、火によって守られた深い記憶。

最近、自然の火に見入ってしまう新たな理由を知りました。

教えてくれたのは、ハーバード大学生物人類学教授、リチャード・ランガムさんの著書「火の賜物:ヒトは料理で進化した」。今週のお題「最近おもしろかった本」にぴったりの本です。

ヒトの進化を導いた火

類人猿とヒトとの大きな違いは?

ヒトの際立った特徴は、最も大きな脳と最も小さな消化器官です。

脳の大型化と消化器官の小型化を可能にしたのが、火による調理であると説くのが「火の賜物:ヒトは料理で進化した」。

火を通した食べ物は、味が良く、安全性が高い。

それだけではありませんでした。火を通すとエネルギー吸収率がぐんと高まります。たとえば、卵。生で食べるより、調理すると吸収率が40%もアップ。コムギやジャガイモなどのでんぷん類はもっと顕著で、加熱すると90%向上。

調理によって柔らかく、消化しやすくなった食物には大型の消化器官は必要なし。消化エネルギーが節約され、余剰エネルギーは脳にまわすことができるように。火を調理に使うようになって、脳の容量は爆発的に増加。体重の2%の重さしかない脳が、基礎代謝量の20%ものエネルギーを使う器官に発達しました。

「私たちヒトは料理をするサルであり、炎の動物である」というランガムさん。

炎の動物である私たちが、自然の火をみて心和むのは当然なのかも。

火の賜物 リチャード・ランガム 著

炭での調理法は?

火を獲得したあと、炭がどのように調理に使われていたのか。

太古の人々の調理の仕方を知ることは難しいですが、現在、狩猟採集をしている人たちの調理方法が参考になります。

ボツワナクン・サン族は、とても栄養価の高いモンゴンゴの実を調理するのに消炭を使います。消炭を熱く乾いた砂と混ぜ、たくさんのモンゴンゴを埋め込みます。直接炭にあたって焦げないように注意しながら、必要に応じて炭を足していき、実が焼けると一つずつ槌で割っていきます。

タンザニアのハッザ族は、主食であるエクワを炭に立てかけて焼きます。このエクワ(Ekwa)、アズキの仲間ですが、土中に育つ塊根(イモ)を食べます。タンパク質含有量がとても高く、ジャガイモの3倍、サツマイモの15倍。

炭は、狩猟の肉でなく、採集で得た植物系の食物に使われているようです。じっくり調理を得意とする、炭の特性がみごとに活かされていて面白い!

おわりに

「料理の発明は、高品質の食物を提供したとか、いまの人間の体を形作ったということのみで偉大なのではない。」

もっと重要なこととは?

「私たちの脳が無類に大きくなることを助け、退屈な人間の体に輝かしい精神を宿らせたのだ。」

火に与えられた大きな脳で生み出すものが、ランガムさんのいう輝かしい精神を反映していますように。

sumimagic.hatenablog.com

<参考資料>内藤健, 2016, Vigna属植物アズキのなかまがもつ多様性と可能性, 生物と科学 54:460-470;リチャード・ランガム, 2010, 「火の賜物:ヒトは料理で進化した」NTT出版