黄金色に輝く稲穂に彼岸花。
10月に入って、秋も本番です。
食欲の秋はヒトだけのものにあらず!
野生の動物たちにとっても同じようで、動きが活発になります。
山歩きで一番ばったり出会いたくない大型野生動物、クマ。
そんなクマが苦手とするのが、ウッドビネガー、炭づくりの副産物の木酢液です。
木酢液ってどんなもの?
クマよけの効果とは?
木酢液って?
炭焼き窯から立ち上がる白い煙。
この煙を逃がさずに集めて、常温で液体にしたものが木酢液です。
木酢液の80~90%は水分ですが、残りの10~20%に様々な成分が含まれています。
重要な働きをするものだけでも50種類、計200種類の化合物を含む木酢液。
ウッドビネガー、木酢液という名前が示すように、最も多いのが酸類。他にも、アルコール類、エステル類、フェノール類、アルデヒド類といった化合物が含まれています。
木酢液の使い途
長い利用の歴史をもつ木酢液。
炭窯の煙突から落ちる液体が雑草に与える影響や、悪臭に効果があることを経験的に知った人々によって使われ始めたようです。
多くの成分を含む木酢液には、たくさんの作用が!
- 抗菌・抗ウィルス
- 植物の生長促進
- 雑草の防除
- 動物・害虫の忌避
- 家畜の体質・品質改善
- 消臭
- 染色・塗装
クマの嫌がる臭い
カメムシ、ハエ、ナメクジ、シロアリなどへの忌避効果が知られる木酢液。
大型動物はどうなのでしょう?
ツキノワグマが樹皮を剥いで、その下の形成層をかんだり、なめたりするクマ剥ぎ。半分以上剥がされると木の枯死につもつながる林業被害です。木酢液を塗ったところ、約1年は被害がなかったという研究結果が。
ムースによる幼木の食害が問題となっているフィンランドでは、木タールの塗布で高い抑制効果が。木酢液にも含まれるフェノール類の強い刺激性のあるにおいが、忌避効果を発揮しているようです。
インドではゾウ。木酢液にブート・ジョロキア(世界一辛いトウガラシ)を混ぜた液が、ゾウを寄せつけません。
これをヒントに商品化されたのが、
「熊にげる」(合同会社ツリーワーク)。
青森県木炭協会の会長もつとめる、ツリーワーク社長の佐々木嘉幸さんが開発。自ら栽培したブート・ジョロキアを木酢液に配合、東北地方を中心に試験を行い、青森県内では100%に近いクマ忌避効果を確認しています。
「熊にげる」には、畑などに設置するタイプのほか、お客さんからの要望に応えて開発した携帯用も。
とある大学の獣医学部にしたところ、シカ、イノシシ、タヌキ、ハクビシン、アライグマにも同様の効果が見込めるとの報告があったそうです。
おわりに
木炭も多機能ですが、多成分の集合体である木酢液も活躍の場が広い。
イギリスの生物学者ローランド・エノスさんは、著書『「木」から辿る人類史』で、現代人は木を「美しいが基本的に役に立たない生物、そして薪や木工材になりうる存在としてとらえ続ける」と嘆いていました。
けれど、脱化石燃料のこれからの世界。
木炭や木酢液をはじめ、木が果たす役割はとても大きなものになりそうです。
<参考資料>岸本定吉監修, 1997「炭・木酢液の利用事典」創森社;福田夏子, クマ剥ぎの発生実態と発生要因及び防除策に関する既往文献調査, 環境情報科学論文集, 23: 137-142;まるごと青森, 2019, https://www.marugotoaomori.jp/blog/2019/12/21619.html;ローランド・エノス, 2021『「木」から辿る人類史』NHK出版社;谷田貝充克, 2013「木竹酢液ハンドブック:特性と利用の科学」海青社