炭の魔法

時計のない時間、心躍るおいしさ、自然の癒しをまねく炭。

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忘れがたい炭の元祖:消炭

お店で見かけることもなければ、名前を耳にすることもない炭、消炭。

鰻や焼鳥の備長炭、様々な形で使われている活性炭と違って、私たちの生活からもっとも遠いところにいる炭かもしれません。

しかし、消炭はあらゆる炭の原形。そして、炭の字が唯一使われている色が消炭色。日本の色名として、その名が今もなお使われているユニークな存在です。消炭とはどんな炭なのでしょう。

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消炭とは?

広辞苑によると、消炭は「薪や炭の火を途中で消してできたやわらかい炭」。おき(熾き)と呼ばれることも。

燃えている木材を水の中にいれて、雪でおおって、土に埋めてなどのつくり方があります。消しつぼに入れて消火した炭も消炭です。

人類創世記の技術革新を牽引

焚き火をしたときに、一部の薪の火が消えて自然と消炭ができることがあります。

北京原人が洞窟のなかに多くの炭片を残していますが、これらも消炭の一種と考えられています。発火しやすく、煙が立たない、薪より使いやすいことを経験で知り、意識的に消炭を造り蓄えて利用していた。さらに、洞窟のなかでの薪の煙の不快感が、消炭への習熟を駆り立てたとも推測されています。そして、軟質軽量な消炭から硬質な木炭の製造へと製炭技術を発展させていった人びと。

考古学者の樋口清之さんは、

「木材の持つ燃料としての自然性質から煤煙を取り除き、軽量にし、加熱の永続をはかり、かつ腐朽を完全に防ぎえるものとしての木炭の登場は(中略)、人類文化史上忘却し得ない重要発明の一つである」と木炭を絶賛されています。

魅力の使いやすさ

やわらかくて軽い消炭の最大の美点は、とても火が起こしやすいこと。すぐに「おこる」ので、100年前の東京では短気な人を消炭とよんでいたそうです。

火がつきやすい消炭は、炭火初心者の心強い味方。火のつきにくい白炭を扱う場合、消炭に火を起こしてから白炭を足すとスムーズに火が移ります。

もう一つの消炭ならではの利点は、燃焼時間の短さにあります。パン、さつま揚げ、しいたけなど、ふだんの食材でも、炭火でちょっとあぶるだけでいつもとは違った味わいが楽しめます。短時間、ちょこっとだけ使いたい時に消炭はとても便利。うちわであおげば火力も高まるし、炭を足さなければ約10分で終了といった手軽さです。

和のオフブラック

消炭色は、黒に近い暗い灰色。

灰色と一口にいっても、ミッドナイトブルーのような黒に近い紺色、チョコレートやようかん色のような赤みや茶みの黒があります。消炭色は、無彩色系のオフブラックを表す色として独特の存在感を持つ色。冬の季語でもあります。

消炭色は英語でいうと、チャコールグレー。ちなみに、グレーとは、本来、夜明けのほの明るさを表現した色だそうです。

おわりに

とにかく使いやすい消炭。

人類との付き合いも長い消炭が簡単に手に入るようになれば、炭火利用のハードルがぐんと下がるに違いありません!

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<参考資料>新村出編, 1983, 広辞苑 第三版, 岩波書店日本国語大辞典第二版編集委員会, 2001, 日本国語大辞典第三版, 小学館樋口清之, 1978,日本木炭史, 講談社;福田邦夫, 2017. 色の名前事典, 主婦の友社