炭の魔法

時計のない時間、心躍るおいしさ、自然の癒しをまねく炭。

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桜とあんと炭と

桜の季節です。

桜というと、満開の桜で始まる映画「あん」を思い出します。

樹木希林さん演じる徳江さんは、あん作りの名人。

それほど繁盛していないどら焼き屋さんに、働きたいとやってきます。

どら春の店長の永瀬正敏さん、最初は渋っていました。それが、徳江さんの作ったあんを食べて心が動きます。働いてほしいと願うようになった、香りも甘味も奥深いあんとは?

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絶品あんのつくり方

50年間、あんを作り続けてきた徳江さん。

甘いものが苦手で、どら焼きひとつなかなか食べられない店長さんが、完食するほど美味しいあんを炊きます。

その手順は、まず、皮のよったものやはじけている、あんに向かない豆を選り分ける。小豆を火にかけ沸騰しそうになると水を差す作業を繰り返したあと、新しいぬるま湯に浸して渋を切る。弱火でじっくり煮込んだら、まな板をのせて蒸す。最後に上水が澄むまで何度も冷水に浸して、銅割れ、しわとは無縁に光る小豆を炊き上げます。

徳江さんは、ひとつひとつの作業を丁寧にやりぬきます。そして、小豆をとても大切にする。小豆に「がんばりなさいよ」と語りかけ、小豆から目を離しません。


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「あんは気持ちよ」と言う徳江さん。

どら春で使っていた業務用の中国から輸入したあんには「作った人の気持ちが感じられない」。徳江さんのあんを使うようになってからは、どら焼きを求めて行列ができるまでに。

生きている小豆

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同じ農地の、同じ銘柄、同じ作り手の小豆でも、年によって小豆の個性は違います。さらに、収穫された秋から1カ月、2カ月と時が進むにつれて、皮が固くなり煮えにくくなることもあれば、逆に味がよくなったりと、小豆は常に変わるそう。

新豆がでると、あんだけを竹の器に詰めて売っている京都の和菓子屋さん。一定の味を保つようにはしていても、微妙な味の変化が表れるといいます。そういった個性を楽しみに、販売期間中に何回も訪れるお客さんもおられるとか。

徳江さんが毎回じっと小豆に見入っていたのも、常に変化する小豆に合わせてこそ、美味しいあんが作れるからなのでしょう。

小豆を煮るには炭火

小豆を上手に炊くには炭が一番と読んだことがあります。

気になって調べてみましたが、核心的な答えは見つかりませんでした。

皮が固い小豆をふっくらと煮るには、火加減が大切。焚き木の強い火で一気呵成に煮ると、仕上がりは固く、胴割れの原因に。焚き木は火の調整が難しいですが、炭火ならとろ火を保つことが可能。あんには炭火と言われる所以は、このあたりにあるのかもしれません。

小豆ではないですが、お味噌を仕込む大豆を炭火で炊いたところ、大豆が美味しくなりました。ことこととと炭火で煮た大豆は味が違います。大豆の旨味が引き出されて、あまい。炭火だとお豆が美味しく炊けるのは、火加減だけの問題ではないのでは。

小豆と炭

鍋のなかの小豆をじっと見守り、小豆の声を聞く徳江さん。丁寧に小豆を扱うのは、遠くから来た小豆をもてなすためだといいます。大切に扱われた小豆は、美味しさで応えてくれます。

炭に火をつけるときと、ちょっと似ています。気温や湿度を感じて、炭が心地よく起きる状態を整えられると、さっと火がともる炭。赫く輝く炭は、息が合ったねと言ってくれているようです。

おわりに

「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれてきた。

・・・だとすれば 何かになれなくても、私たちには、生きる意味があるのよ。」

映画のポスターに書かれた言葉。

原作「あん」は14か国語に翻訳されています。

海外の書評に「料理と人生への讃歌、詩的で感覚的な心に響く喜び」とあり、原作者のドリアン助川さんも人間讃歌だといっています。

満開の桜の下で読みたい小説「あん」。

樹木希林さんとドリアン助川さんの対談もおすすめです。


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<参考資料>ドリアン助川, 2013. あん, ポプラ社;姜尚美, 2018, 何度でも食べたい。あんこの本, 文春文庫;Le livre de poche, Les Délices de Tokyo.

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