炭の魔法

時計のない時間、心躍るおいしさ、自然の癒しをまねく炭。

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珈琲の時間、炭の時間

「焙煎の後の部屋って、たまらなく良い香り!」

珈琲の自家焙煎にこっている友だちの話を聞いて、やってみたくなりました。指南書をと思い探すと、珈琲に関する本はたくさん出版されているのに驚きました。焙煎についてもプロ向けのものから、家庭で楽しむものまで選りどり見どり。

けれど、求めたのは焙煎に特化した本ではなく、蕪木祐介さんの「珈琲の表現」(雷鳥社)。豊かで奥深い珈琲の世界への扉でした。そして、思わぬ珈琲と炭との共通点も発見することに。。。

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珈琲を表現する

珈琲焙煎士であり、珈琲店の店主でもある蕪木さん。同じ嗜好品であるワインと大きく違うのは、ワインが完成されているのに対し、珈琲は豆を挽く、抽出するという大きな役割が飲み手である私たちに委ねられること。作業の方法ひとつで、香りや味など珈琲の表現が変わってくる。その人の性格や、美意識などの芸術性が自ずと入り込み、味の土台ができ上ると語ります。

そこに、ちょっとした理論と概括的な知識が加われば、珈琲の表現は大きく広がり自分好みの味をうみ出すことができる。この理論と知識を、わかりやすく、惹きこまれる文章で授けてくれるのが本書です。

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焙煎の哲学

焙煎の説明の冒頭にこうあります。

「珈琲豆は植物の種子であり、生の状態では青臭く、良い香りがするものではありません。この生豆を焙煎して熱を加えることで、成分に化学反応が起こり、初めて珈琲らしい芳ばしさがうまれます。そして同時に、苦味と酸味の強弱が決定づけられます。」

焙煎をする人の役割はとても重要。

どの程度の熱を、どのぐらいの時間加えるかで、化学反応は変わってきます。焙煎を浅くすると、果物や花を思わせる軽やかな香り。焙煎を深くすると、豆の色も緑色から黄土色、茶色、こげ茶へと変わり、カラメル香やロースト香が漂います。豆の特性を大切に、思い描いた味をだせるかが、焙煎の目指すべきところだとわかりました。

珈琲の時間、炭の時間

贅沢で味わいの深い一杯を淹れるために、鮮度の良い豆を使い、豆は直前に挽く。時間と手間のかかるネルドリップで、想いをこめて淹れる。

「本当に美しいものを作ろうと思ったら、面倒なことにこそ、大切な要素がこめられているものだ。効率的なことは大切だ。しかし、行き過ぎることで失われているものはきっとあるだろう。」

淹れる人の思いの感じられない機械の味になってしまうから、コーヒーメーカーは使わないでほしいと蕪木さんはいいます。炭火と同じだな、と思いました。火起こしから始まり時間も手間もかかる炭火ですが、食材の味を引き出し、ふっくらと温めてくれます。ガスコンロはとても便利、けれど炭火のような火との対話はありません。

「日々の仕事や雑務に追われ感情の浮き沈みが激しくなっていると、この儚く愛おしい人生をあっという間に平らげてしまいそうだ。」

珈琲屋での時間が静かに自分をリセットする時間であるように、炭火の時間は自然のリズムに呼吸を合わせる時間。マインドフルな時を運ぶ珈琲と炭です。

 

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